どうして私たちは、結局「何台も自転車を持つことになる」のか


ロードバイクに乗っていると、ふと思う。

「輪行しやすいフォールディングバイクも欲しいな」

実際に輪行しているとき、輪行袋に入ったロードバイクを持ち上げて駅の階段を上るときや、車内での輪行袋と自分の身の置き場に困ったときにも、そんなことを思う。

しかし、フォールディングバイクを買って、輪行旅を始めると今度はこう思う。

「でも、やっぱり速く走りたい。ロードバイクがいいな」

同じようなことは、MTBとロードバイクでも起きる。
オフロードを走れば「やっぱりロードバイクの軽さとスピードが恋しい」と思い、
ロードで走れば「いや、たまには未舗装も走りたい」となる。

これは「自転車好きあるある」として、もはや逃れられないのかもしれない。

1台で全てを満たそうとすると不満が生まれる

誰もが最初は「この1台で充分だ」と思うだろう。ロードバイクを買えば、舗装路はどこまでも行けるし、山も登れる。

だが、輪行袋に入れるたびに「もう少しコンパクトだったらな」と考え、小径車の軽快さや折りたたみの便利さに心が揺れる。

フォールディングバイクを買えば、確かに輪行や街乗りは楽になる。だが、ロングライドで「20km/h巡行」が続くと「ああ、やっぱりロードバイクのスピード感が恋しい」となる。

MTBを持っている人は「舗装路ばかりだとタイヤが重いな」と思い、しかしロードバイクを買った途端に「林道やトレイルも走りたい」と思う。

ダートに入ると「MTB最高!」と叫ぶが、舗装路に戻ると「やっぱりロードの方が速いな」となる。結局「両方持つ」のがいちばんラクだと気づく。

それどころか「いや、グラベルロードも含めて3台あればカンペキ!」とすら思う。

「全部入り」は存在しない

その「グラベルロード」ならどうだ?

「ロードとMTBのいいとこ取り」と言われるが、実際は「中庸」でしかない。グラベルロードはグラベルロードの楽しみ方があるが、「全部入りの自転車」は存在しない。

自転車は、用途ごとに適した形がある。

  • スピードを求めればロードバイク
  • 荷物を積みたければツーリングバイク
  • トレイルを走りたければMTB
  • 気軽に街乗りしたければミニベロやフォールディング

それぞれに良いところがあるが、それを1台に集約するのは難しい。

そして「多台持ち」が始まる

だから人は「増車」してしまうのだ。

「じゃあ仕方ない。全部持とう」と考えるのが、多くのサイクリストの行き着く先だ。

最初はクロスバイク。
次にロードバイク。
その次にフォールディングバイク。
3台持ちは置き場所もなく、クロスバイクを友人に譲渡。

ところが場所が開くとMTBも欲しくなる。
グラベルロード、チタンバイク、シングルスピード……等々、あれこれも欲しくなった挙句に「やっぱりクロスバイクも街乗り用に持っておくか」となり、クロスバイクを顔直したり。

気がつけば、玄関にはクロスバイク。
廊下には折りたたみ自転車。
ベランダにはMTB。
室内にはカーボンロードとクロモリロード。
「どれか1台を手放そうかな」と思っても「でも用途が違うし」と言い訳して手放せない。家族の視線が痛い——。

そもそも、1度に乗れるのは1台までじゃないか!

自転車のせいじゃない

結局、どこまで行っても「もう1台欲しい」という欲望からは逃れられない。

ただし、私たちの欲望がとどまることを知らないのは「理想の1台」が存在しないからではない。

たとえ完璧なバイクがあったとしても──次の日にはきっと「もっと軽いのがいい」「輪行しやすいのも欲しい」と、別の欲望が芽生える。

原因はバイクではない。
私たち自身の、飽くなき煩悩にあるのだ。

——などと言いつつ、私は今日もブロンプトンの折りたたみサイズを確認したり、とあるクロモリロードのタイヤクリアランスを調べたりしているのだが。

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